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地獄の釜の蓋

地獄の釜の蓋

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 四年前の春、東丹沢でみかけたツクバキンモンソウについて書いたときも、房総の窯場でみかけたヒイラギソウについて書いたときも、他に書くことがなにもなくて、花が酷似している地獄の釜の蓋について記している。地獄の釜の蓋はわたしが知っている数すくない花の名前。正確には俗称で、“本名”はキランソウキランソウの名前は忘れても(二度に一度は忘れているものの)、地獄の釜の蓋という名前は忘れることはない。キランソウですらよく忘れるのに、ましてや、ツクバキンモンソウやヒイラギソウの名前は、植物図鑑で調べたときにだけいえる名前で、三日もすれば忘れてしまい、「地獄の釜の蓋にとてもよく似た花」ということしか覚えていなくなる。蛇足をくわえれば、息切れの山登りの途中にみかける、岩場の間にぽつんと咲くツクバキンモンソウの花とその葉は、おどろくほど美しい。

 地獄の釜の蓋は、どこにでもはえている雑草で、山道でもみかけるし、駅まで歩く道の、塀の下あたりのやや日陰の地面に、へばりつくように広がっている。町内会の道路清掃のときも、雑草として抜いてしまう。虫眼鏡で拡大すればずいぶんと派手な意匠ではあるのだが、ふつうに地面を見下ろしてみると、地味で目立つところはない。ただ、地獄の釜の蓋という名前だけが、とてつもなく、強烈。

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写真 キランソウ 角度をおとして、すこし派手に撮ってみた 神奈川県横浜市 2017.4.14撮影